文法も大事ですが単語が覚えられなければ何も始まりません。ここでは、つづりまで正確に書くことができて単語を覚えたということにします。長いこと英語に接していると余程特殊なスペルでもない限り特に意識しなくても覚えられるものですが、初めは苦労するものです。人によって覚え方は様々ですが、多くの人がローマ字読みを利用して覚えた経験があると思います。ローマ字読みのおかげでずいぶん助かったという人は多いはず。ところがこのローマ字教育が最近軽視されているようなのです。はたしてその是非は?

どうも単語が覚えられなくて・・・と塾にやって来る中学生のほとんどはローマ字の読み書きができません。「小学校で習わなかった?」 「うん、1時間くらいしかやらなかった」 「えー?そーなの?」  中には先生がローマ字は英語学習の弊害になるからやらないほうがよいと言っていたという生徒もいました。その後、私もテレビで早稲田大学の大槻教授が次のように言っているのを見ました。「だいたい、ローマ字なんか教えるから英語がわかんなくなるんだよ。あんなもんやらない方がいいって言ったら、うちの英語科の教師たちは笑ってんだよ。」  お言葉ですが、そりゃ英語科の先生方が正しいんじゃありませんか?大槻教授。大槻教授のようなローマ字反対論者は日本で習うローマ字と英語の読み方が一致しないから混乱させる、だいたいアメリカ人はローマ字なんか習わないと言いたいのでしょう。一致しないのは当たり前で、英語は一定の表記法に基づく人工語ではありませんし、大体ローマ字は日本語の表記をしているのですから。
しかしそれで本当に混乱するのでしょうか?TAKEをどうしてもタケと読んでしまいなかなか覚えられなかったなんて人はいるのでしょうか?英語をある程度やってくれば、TAKEを初めて見たとしてもテイクと読めます。それはCAKEやLAKE、MAKE等の知識から頭の中で自然に帰納的推理が行われるからでしょう。つまりこれは文法編でもお話ししたように英語に接する長い時間の中で身についてくる感覚です。そこに至るまで混沌とした英語の闇を手探りで進まなければならないのでしょうか。ローマ字さえ知らない英語初心者のこどもたちにとって英単語はなんの脈絡もない26種の記号からなる暗号です。覚えろという方が無理ではないですか。英語を嫌いにさせるだけです。ローマ字読みだろうとなんだろうと要は覚えればいいわけです。そしてやがて英語そのものの感覚が身についてくるはずです。
ローマ字を教えないことについてもうひとつ納得できないことは、自分の名前やひとの名前、日本の地名などをどう表すのか、ということです。実際英語の教科書にはKenji君やEriko ちゃん、Lake.Biwa などが登場します。それはつまり中学生はローマ字の読み書きができることを前提にしているからではないですか。ところが現実にはローマ字を知らない生徒が多い。ここにすでに英語をわからなくさせる要因があるではないですか。そういうわけでベストクラスでは英語を教える前にかなりしっかりとローマ字の読み書きをします。これがしっかり出来ている子は英語に入った時、混乱するどころか非常にスムーズに英単語を覚えていきます。中学1年の後半くらいになって単語が覚えられないと塾にやってくる生徒には、一見後退、遠回りのようですが、ローマ字の勉強をさせます。すると随分と改善されるものです。文法編でもお話ししましたが、最近の教科書は会話重視の思想から最初に、HELLO とか NICE TO MEET YOU といった挨拶ことばがたくさん出てきます。しかし中間テストで問われる事は結局それらを正しく書くことができるかどうかなのですから、やはり最初から無理なくスペルを覚える術を知っていなくてはならないのです。
ローマ字ではありませんが、同じくつづりに関し、少人数だからこそ気づくことをもうひとつだけお話ししましょう。
中学生、特に1年生によく見かけるのですが、book を dook、dog を bog と書いてしまう、つまり、b と d を混同する間違いがあります。「えー、そんなばかなあ?」と思われる方が圧倒的多数でありましょう。私も、英語を習い始めてから b と d を間違えた記憶などなく、両者が似ているという感覚は全くありませんでした。 しかし、間違える生徒が多いのは事実なので、両者は似ているのです。そう言われればタテ棒の右か左の違いですからね。
見ていると、間違える生徒は決まって b も d もタテ棒から先に書いていることに気づきました。こうすると棒の右か左ということで区別する可能性が強くなります。人はその違いが単純であるほど記憶しづらいということは多くの人が経験していると思います。また、区別している意識はなくても、途中まで(タテ棒)までは一緒ですから無意識にペンが逆に行ってしまうことがあるのです。正しい書き順は、b はタテが先ですが、dはcを先に書かなくてはなりません。d のタテ棒を先に書いていても間違えない生徒もいます。しかし、間違える生徒はタテ棒を先に書くのです。  それにdのタテ棒を先に書くのは、英語を書く上でも不自然です。流れの中で筆記体へ移行できません。 a から z までをつなげて書けるのが自然の書き順です。そうした意味で、i や j の点はあとに、t のタテを先に書くのも守った方が良いと思われます。このようなことをもっと中学校の先生に注意してもらいたいものです。  文責: 高橋